【令和5年第3回定例会 決算等審査特別委員会(第2分科会及び全体会)】大草よしえ質疑内容・市長等答弁:「イノベーションにつながる科学教育」

令和5年第3回定例会では、一般質問に加えて、令和5年度決算等審査特別委員会の分科会及び全体会でも、「イノベーションにつながる科学教育」という観点から決算年度の取組について質疑を行いました。仙台の未来を担うイノベーションをここ仙台の地から継続的に生み出していくためには、科学的思考力の育成が必要不可欠であり、例えば70年以上も歴史がある中学生全員参加型の科学館実習など、本市ならではの特長を活かしながら、博士号習得者など高度人材も採用し、様々な大学や研究機関等と連携のもと、科学的思考力を育成するためのコンテンツ群の制作と指導体制を構築すべきとの提言を行いました。以下に、大草よしえによる全体会及び第2分科会での質疑の録画中継と、全体会での総括質疑内容及び市長等の答弁(全文)を掲載いたします。

【録画中継はこちら(仙台市議会HP)】
10月11日 決算等審査特別委員会(全体会) https://sendai-city.stream.jfit.co.jp/?tpl=play_vod&inquiry_id=6511
10月3日 決算等審査特別委員会(第2分科会)https://sendai-city.stream.jfit.co.jp/?tpl=play_vod&inquiry_id=6481

令和5年第3回定例会 10月11日 決算等審査特別委員会
心豊かな社会をつくる会 大草よしえ

イノベーションにつながる科学教育

 心豊かな社会をつくる会の大草よしえです。私からは、イノベーションにつながる科学教育という観点から、決算年度の取組について、伺って参ります。

 天然資源のない日本が、これから科学技術立国として生き残っていくには、イノベーションが必要不可欠です。イノベーションの基盤として、昨今はIoTやAIといったテクノロジーがほぼすべての分野に浸透し、今後ますます浸透していきます。そして、これらのテクノロジーを使いこなすためには、科学教育が必要不可欠です。私も「科学・技術の地産地消」と銘打ち、地域の資源を活用しながら教育、研究、産業のエコシステムを形成することが重要と考えておりますので、仙台市の「スタートアップ・エコシステム拠点形成事業」などの取組は、非常に重要であると考えています。

 政府も近年スタートアップ支援に力を入れ始めたところで、国が旗を振っている間に推進することは大切なことではありますが、国の支援策依存となり、金の切れ目が縁の切れ目とならないよう、イノベーションが持続的・永続的に生み出されていく土壌を、この仙台の地で耕していく必要があると考えております。そのためには、外から人を呼ぶ発想だけでなく、この地で創造的人材を如何に育てられるかという発想が、同時に必要不可欠ではないかと考えます。

 よく仙台では「頭脳流出」が問題だと言われておりますが、東北大学や支店経済などのおかげで全国から優秀な方々が集まってきており、もともと外から来た人が単にそのまま外へ出ていっただけで、本質的には頭脳流出ではなくプラスマイナスゼロであると、私は認識しております。そこで本当の意味で仙台が「頭脳流出」と言われるくらいに、仙台で創造的人材を育て、継続的にイノベーションが生まれるエコシステムをつくることなしに、仙台の未来の発展はないのではないかと考えます。地域への愛着を持って、きっちりと育てられた人であれば、たとえ外に出たとしても、ゆくゆくは成長して力をつけて地元に戻り、またイノベーションの種になる、本当の意味で、地域に貢献してくれる人材になるものと考えます。このように教育は、10年、20年先に花咲く領域だからこそ、長期的な視点に立ち、施策を実行していく必要があると考えております。

「仙台スタートアップ戦略」の人材育成について

 このような観点から、まずは郡市長が会長を務めていらっしゃる「仙台スタートアップ・エコシステム推進協議会」において令和4年度に策定された「仙台スタートアップ戦略」について伺います。この戦略には、「イノベーションの担い手であるスタートアップ企業を連続的に生み出す」ための戦略が書かれているものと理解しておりますが、このうち「連続的に生み出すため」の一番のベースとして必要不可欠と思われる人材育成に関して、令和4年度の取組状況をご報告ください。

答弁(経済局)

 スタートアップ支援課長よりお答えいたします。決算年度におきましては、スタートアップ人材に必要なアントレプレナーシップの醸成を目的とする事業を実施いたしました。小中学生向けには、企業の一連の流れを体験するワークショップ、高校生向けには社会課題の解決策について議論し発表するプログラムを、また大学生を対象に仙台・東北の起業家を訪問してその思いや活動を取材し、その記事を発信する取組を行いました。

科学的思考力育成の取組状況について

 ご答弁ありがとうございます。起業家精神を育成するアントレプレナーシップが重要であることは重々承知しておりますが、「仙台スタートアップ戦略」に目指す姿として掲げられております「仙台・東北から世界を変えるスタートアップ」が生まれるためには、起業家マインドはあくまで前提条件であって、「世界を変える」には、イノベーションが不可欠であると考えます。

 そもそもイノベーションは、圧倒的な科学的思考力なしには起こり得えません。このこと自体はおそらくすべての方から同意いただけるものと存じます。ただ、科学的思考力を身につけると言っても、それは一朝一夕には難しいものであります。なぜならば、ものごとへの興味・関心、つまり強い知的好奇心と、現象から因果関係を抽出する洞察力、そしてそれを論理的に考察する論理的思考力、これらを成長段階に応じて、適切な指導のもと鍛え上げる、膨大な積み重ねが必要だからです。つまり、下は幼児教育から、小中学校の義務教育はもちろんのこと、高校、大学、大学院での教育、さらには社会に出た後の弛まぬ研鑽まで、それぞれの成長段階において適切な指導のもと、先に述べた3つの要素を鍛え上げ、膨大に積み重ねていった先に初めて、イノベーションが生まれる可能性が出てくると考えます。

 仙台市が直接的に役割を担っているのは義務教育ですが、義務教育において科学的思考力を養う領域は、縦割り的には、理科ということになるかと思います。ただ、一般的に理科教育の問題点を議論する時、どうしても単に理科の好き・嫌いで論じられることが多い傾向にありますが、問題の本質はそこではなく、繰り返しにはなりますが、知的好奇心、洞察力、論理的思考力という科学的思考力を養うことがその目的ですので、当然のことながら、理系・文系関係なく科学的思考力の育成は必要不可欠です。ましてや、今後ほぼすべての分野にますます浸透が広がるIoTやAIを使いこなすためには、たとえ文系であっても理科教育が今後ますます重要になると考えております。

 一方で、仙台という土地を、科学という切り口で見ると、東北大学をはじめとする様々な高等教育機関や、産業技術総合研究所や理化学研究所といった国研など、ほぼすべての分野を網羅していると思えるだけの研究開発機関が、一通り揃う、非常に豊かな知的資源が揃っている土地です。これら地域の資源を最大限活用することで、先程申し上げたような科学的思考力を育成できるだけの教育システムの構築ができると私は考えており、ぜひそれを実現したいと考えております。

 このような観点から、次に3点、決算年度の取組状況について、伺います。1点目は、義務教育における理科並びに科学教育の取組について、学校の中に限らず、科学館や天文台、野草園、動物園、水族館等々、仙台市の施設を活用した発展的な学習の取組がありましたら、それも含めてご報告をお願いします。2点目に、義務教育の範疇を超えて科学へと深化させる取組として、東北大学など地域の高等教育機関や研究機関等(仙台市外の団体)と連携した科学教育を行っていると伺っていますが、それらの決算年度の取組状況について、ご報告ください。3点目に、社会構造を根本的に変えていくテクノロジーであるIoTやAIを教育に取り込む事例がありましたら、ご報告ください。

答弁(教育局)

 教育指導課長よりお答えいたします。3点のご質問がございましたので、3点まとめてご答弁させていただきます。

 小・中学校においては、まず理科や生活科の授業において、自然に親しみ、観察や実験などを通して科学的に探求する力の育成を目標に学習を進めております。また、すべての中学校において、1年生で天文台学習を、2年生で科学館学習を実施し、学校における理科教育の発展的な学習の機会を提供しているところであり、小学生においても、科学館や天文台のほか、動物園や水族館などを活用した校外学習も行っているところでございます。このほか、「小学校理科学習アシスタント」の配置や、科学館による授業支援、天文台による連携事業の実施など、理科教育の充実に向けた取組も行っているところです。

 2点目としまして、児童・生徒の科学に対する興味・関心を高めることに関してでございますが、科学的思考力を養う上でもこういった点というのは重要であると認識しております。教育委員会では、学校における理科教育を土台としつつ、児童・生徒の「もっと知りたい、学んでみたい」という気持ちに応えるため、東北大学と連携し、小学校6年生を対象とした「こども科学キャンパス」や、中学生を対象とした「大学探検」いったイベント学習など、「サイエンススクール事業」として実施しております。また、企業や大学の研究者などの社会人講師を学校に派遣し、最先端の研究や科学・技術に触れ、研究者と交流する機会を創出し、児童・生徒の科学に対する主体的な学びを支援しているところでございます。

 AIやIoTについての取組については、学校においては、理科や社会科、中学校の技術家庭科の学習の中で、暮らしに役立つデータを効率的に分析し、自動認識、自動制御、遠隔操作を可能にする新しい科学技術や情報技術のひとつとして、IoTやAIの仕組み等を取り扱っているところでございます。例えば理科では、スマートハウスを例に、電気を効率的に使う技術について、社会科では農作物の生育環境を自動制御し収穫につなげる技術などに触れております。また、技術家庭科では、エアコンや掃除機などをインターネットに接続し遠隔操作を可能にする技術を紹介するなど、児童・生徒の興味・関心が高まるような学習を行っているところです。

科学的思考力を育成する指導体制を地域資源を活用しながら構築すべき

 ご答弁ありがとうございます。ご答弁いただいたように、仙台市では、中学1年生は全員天文台に、中学2年生は全員科学館に行くわけですが、社会教育施設を活用し全員参加型の学校教育に繋げている取組は、政令指定都市のなかではほかに京都市しかないと伺っております。私も2010年度から2020年度まで科学館協議会委員を務めさせていただいた関係で、科学館は昭和27年の科学館の前身となる「サイエンスルーム」創設以来、実に70年以上も科学館学習が継続して実施されていることは承知しておりましたが、このように社会教育施設でありながら学校教育にも直結している理科教育は仙台の特徴的かつ重要な取組であり、仙台市にとって貴重な財産であると認識をしております。さらに近年では東北大学等との連携により科学への関心を深化させる取組が行われていることも非常に重要なことと認識しております。

 現状として、只今ご答弁いただきましたように、学校における理科教育を学びの基礎としつつも、現在の体制で、やれることは最大限やっているものと理解はしておりますが、しかしながら科学的思考力を育成するという観点においては、これらの取組だけではやはり脆弱である、と認識をしております。仙台市では天文台と科学館に1回ずつ中学生全員が行く機会があって、もちろん1回でも行くか・行かないかでは大違いなのですが、先にも申し上げた通り、科学的思考力はたった1回だけでは身につくものではないためです。また、大学等との連携も、研究者たちの問題意識から働きがけがあり、仙台の知的資源を活かして科学への興味を深化させる取組であると高く評価できるものでありますが、一方で、大学の研究者たちも本来業務がある以上、片手間にならざるを得ないのが現状です。これらは大事なきっかけにはなるものの、科学的思考力を深めていけるだけの本質的な教育はないのが現状であると認識しております。

 したがって、仙台がこれまで構築してきたこれら財産を礎として、仙台市の未来のイノベーションを担う人材を、ここ仙台から育てるべく、仙台市が主導して、長期的視点に立って、科学的思考力を育成するためのコンテンツ群の制作と、それに対する適切な指導ができる体制を整えるべきであると考えますし、またそれが可能なポテンシャルを仙台市は有しているものと私は考えております。

学校教育と最新科学をつなぐ科学館を最大限活用するアイディア

 そこで、先日の分科会では、この現状に対して、どうすれば様々な大学や研究機関と連携のもと、科学的思考力を育成するためのコンテンツ群の制作と、それに対する適切な指導ができる体制を整えられるかについて、具体的なアイディアを提案させていただきました。

 具体的には、様々な大学や研究機関と連携のもと、科学的思考力を育成するためのコンテンツ群を開発していくためには、科学者と対等に議論ができ、かつ科学的に本質的な理解ができるレベルの専門的人材、具体的には博士号取得者相当がそのラインと思いますが、そのような専門的人材を仙台市が直接採用し、まず手始めに、従来の縦割区分の教科に、昨今のテクノロジーに直結する「数理・データサイエンス・AI」を加え、科学的思考力を育成するためのコンテンツ群を制作するというものです。

 ただし、それを学校教育の中で行うことは現実的ではないので、その拠点のひとつの例として、社会教育施設でありながら学校教育にも直結している、仙台市科学館を取り上げました。これまでお話してきた通り、仙台市の他の都市にはない特徴として、せっかく中学生全員が必ず1回科学館等に学習に来るチャンスがあるわけですし、かつ、せっかくナノテラスなどの最先端の科学・技術を、大学等との連携によって展示する取組を、ちょうど今月から始まる大規模リニューアルを機に、今後、さらに力を入れていくタイミングでもあるわけですから、そのせっかくの1回を呼び水に、さらに興味を持って「もっと深めたい」と思う中学生が、科学館等に何回も繰り返し通って深めていけるだけのコンテンツ群の作成と体制を、最先端の科学・技術をキャッチアップできる博士人材と、理科教育のプロである指導主事がタッグを組んで構築されては如何かと、ご提案させていただいた次第です。このようなアイディアに対して、科学館としてのご認識を改めて伺えますでしょうか。

答弁(教育局)

 科学館長よりお答えいたします。科学館学習を機に、中学生が繰り返し科学館を訪れ、最先端の科学・技術に気軽に触れ、理解を深めることのできる機会をより充実させていくことは重要と考えております。博士号取得者のような、高度な専門知識を有する人材は難しい面もございますが、大学等の研究機関とつながり、科学的思考を高める魅力的な学びを実現できるようなコーディネート力に優れた人材の確保という視点も持ち合わせて、取組を進めて参りたいと存じます。

学都仙台ならではの知的資源を生かした人材育成の仕組みを構築すべき

 今回は、あくまでひとつの例として、科学館を拠点とするアイディアを提案いたしましたが、科学館に限らず、仙台市には他にも礎となる様々な取組があるはずですから、公教育においてこのような考えで展開していくことが、他の都市にはない、学都仙台ならではの知的資源を活かした人づくりのやり方ではないでしょうか。さらに今後は、ナノテラスや国際卓越研究大学などといった、世界最高レベルの科学・技術がここ仙台に集結するという、またとないチャンスが到来するわけですから、このアドバンテージを本当の意味で最大限に活用し、「仙台・東北から世界を変えるスタートアップ」を持続的・永続的に生み出していくためにも、大学のシーズや人材を利用する発想のみならず、仙台市が主導して、そのもっと下の基盤から自ら生み出していく発想と、そのための人材育成の仕組みが、必要不可欠と考えます。このような考えに対して、最後に、郡市長からご認識を伺えますでしょうか。

答弁(郡市長)

 お答えいたします。本年は本市においてG7科学技術大臣会合が開催をされました。また、先般、東北大学が国際卓越研究大学の認定候補に選ばれたところでございまして、こうした機会も活用しながら、「科学技術を生かしたまちづくり」を進めていくことが重要だと考えております。只今、科学館を拠点としたご提案もいただいたところでございますが、こどもたちが学校における学びを基盤としつつ、様々な機会を通じて、科学の楽しさですとかおもしろさを感じたり、また体験したりするということは、子どもたちの考える力や探究心を養い、次代の学都仙台を担う人材育成にもつながるものと認識をしております。人材育成を進める上では、東北大学やナノテラスなどの知的資源を活用する視点も重要でありますことから、高等教育機関、学校、また企業、行政の連携を図って、学都仙台ならではの人づくりやまちづくりに取り組んで参りたいと存じます。


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